「悪魔に魂を売った男」
といえばロバート・ジョンソンですが、そのロバート・ジョンソンの先輩であるミシシッピ・ブルースの先輩、トミー・ジョンソンの「悪魔伝説」を知らない人は多分多いでしょう。
トミー・ジョンソンは1896年生まれで、世代的にはサン・ハウスやチャーリー・パットンと同世代です。
「ブルースはどこで生まれた?」という話になると、ちょっとややこしいことになるのですが、サンやチャーリーらが、ミシシッピのデルタ地帯で「デルタ・ブルース」のスタイルを完成させたのと丁度同じ頃に、やや離れたミシシッピの州都ジャクソンで、デルタの影響を受けつつも、フィールド・ハラーを思わせる朗々としたヴォーカルに、かっつんかっつんとやや前のめりで独特なビートを刻むギターによって”ジャクソン・ブルース”というスタイルを、このトミー・ジョンソンが創り上げたというのは、ほぼ間違いのないことです。
唯一残された写真では、ちょびひげを生やした田舎のジェントルマン風のトミー・ジョンソンでありますが、これが重度のアルコール中毒で、もうどうしようもなかったんだとか。禁酒法の時代に密造酒を浴びるほど飲んで、それでも足らずに工業用エタノールが含まれる靴墨まで口にしてたんだとか。
ロバート・ジョンソンの「悪魔」は、彼の魂と引き換えに、強烈なギター・テクニックを伝授したようですが、同じジョンソンでも(血縁関係はない)トミーの悪魔は、アルコールに姿を変えて、彼から一切をむしり取るだけむしり取ったようです。